袴の歴史 《古代~現代の袴の歴史の移り変わり》
投稿日:2017年10月26日 (最終更新日:2026年1月22日)
卒業式のシーズンが近づくと、街中で見かける華やかな袴姿。
「先輩たちが着ていたから」「振袖よりも動きやすいから」という理由で選ぶ方が多いですが、そもそも「なぜ卒業式に袴を着るのか?」そのルーツを詳しく知る機会は少ないかもしれません。
実は、袴の歴史は古代まで遡り、時代の変化とともに「男性の戦闘服」から「貴族の下着」、そして「学ぶ女性の象徴」へとドラマチックな変化を遂げてきました。
今回は、正倉院に残る最古の袴の話から、明治・大正時代の「ハイカラさん」ブーム、そして現代の卒業式文化に至るまで、その深い歴史と由来を徹底解説します。歴史背景を知ることで、ハレの日の装いがより一層感慨深いものになるはずです。
1. 袴の起源と変遷:モンペから武士の礼装へ
現存する最古のものとしては、奈良の正倉院に所蔵されているものがありますが、その形状は現在の優美な袴とは異なり、戦時中の「モンペ」に近い実用的な形をしていました。
当初は動きやすさを重視した実用着でしたが、時代が進むにつれて権威を表す「儀礼的な衣服」へと変化していきます。特に武家社会においては、武士の正装として定着しました。
この頃の袴は、馬に乗りやすいように股が割れている「馬乗り袴(うまのりばかま)」が主流であり、これが現在の男性用袴の原型となっています。
一方、現在卒業式で女性が着用しているスカート状の袴(行灯袴/あんどんばかま)が一般化するのは、ずっと後の時代のことです。
2. 女性と袴の「空白の時代」:下着から宮中儀礼へ
実は飛鳥・奈良時代から女性も袴を着用していましたが、平安時代におけるその役割は、十二単(じゅうにひとえ)の下に履く「下着(下袴)」のようなものでした。現代で言うところのランジェリーに近い扱いだったのです。
その後、鎌倉時代から室町時代にかけて、女性の服装は大きく変化します。
「小袖(こそで)」と呼ばれる現在の着物の原型が表着として定着し、活動的であることが求められるようになると、女性が袴を履く習慣は一般庶民の間から徐々に消えていきました。
江戸時代になると、公家や武家の女性であっても袴を履くことは稀になりましたが、完全に消滅したわけではありません。宮中での厳格な儀式の際や、あるいは火事の際の「火事装束」としてなど、特殊な場面では伝統的に用いられ続けていました。
このように、長らく女性の日常着から離れていた袴が、劇的な復活を遂げるのが「明治時代」です。
3. 明治の革命:なぜ女学生は袴を履いたのか?
着物に帯というスタイルでは「帯が背もたれに当たって座りにくい」「裾が乱れて動きにくい」という実用上の問題が発生しました。そこで注目されたのが、かつて宮中の女官が着用していた袴です。
●1871年(明治4年):
一般の女性が袴を着用することが認められるようになり、女学校の教師が最初に導入しました。
●1880年代〜:
下村輪子らが考案した、股のないスカート状の「行灯袴(あんどんばかま)」や、紫色の袴が女学生の制服として採用され始めました。
当時はまだ義務教育が完全ではなく、女学校に通えるのは裕福な家庭の子女に限られていました。1876年(明治9年)頃には幼稚園の保母や園児にも袴姿が見られたそうですが、これもまた「良家の子女」であることの証(ステータスシンボル)でもあったのです。
4. 「海老茶式部」と大正ロマン:流行の発信源
当時、華族女学校の学生たちが「海老茶色(エンジ色)」の袴を好んで着用したことから、紫式部をもじって「海老茶式部(えびちゃしきぶ)」という言葉が流行しました。
また、西洋文化の影響を受け、足元には草履ではなく「革靴(ブーツ)」を合わせ、髪には大きなリボンを飾るという、和洋折衷の「ハイカラさん」スタイルが大ブレイク。
当時の新聞や錦絵にも描かれたその姿は、先進的で活動的な「新しい時代の女性」の象徴として、多くの女性たちの憧れの的となりました。
この時代の「大正ロマン」な雰囲気は、現代の卒業式コーディネートでも根強い人気を誇っています。
5. 現代へ受け継がれる「自立した女性」のシンボル
しかし、明治・大正期の女学生たちが抱いた「学問を修め、社会へ羽ばたく」という精神は、現代の卒業式文化の中にしっかりと息づいています。
現代の女子学生が卒業式に袴を選ぶ理由。それは単に「可愛いから」だけではありません。
かつての女性たちが、動きやすい袴を身につけて新しい時代を切り拓こうとしたように、「学業を成し遂げ、次のステージへ自立して歩み出す」という決意を表す礼服として、これ以上ふさわしいものはないからです。
古代から続く伝統と、明治・大正の革新的なスピリットが融合した「袴」。
一生に一度の卒業式には、ぜひその歴史の重みを感じながら、あなたらしい最高の一着を選んでみてください。
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